オンラインインタビューでどんな調査ができるかということですが、オンラインインタビューとは文字通り、Zoom等のビデオチャットツール、ビデオ通話アプリを使って、遠隔で対象者の方にインタビュー調査を行う手法です。従来、インタビュー調査というものは、インタビュールームというリアルな会議室の中で行われてきました。しかし昨今、このコロナ禍の中にあって対面での調査が難しいという環境の影響もあり、オンラインインタビューの調査方法は、ここ1年半ぐらいをかけてかなり浸透・普及してきました。1. オンラインユーザーインタビューのメリットオンラインインタビューの最大のメリットは、適切な対象者を呼んでこられるということです。そもそもインタビュー調査というものは、アンケート調査とは異なり、数百人、数千人という統計的に代表値化される標本数で行うものではありません。定量的に平均値や中央値、その他の算術によって代表性を見いだしていく手法とは異なっているのです。そうではなく、ある母集団における「性質的な」代表性を持った対象者を見つけてきて、行動・心情・背景などのインタビューを通じて、その母集団に共通に発生しているであろう「パターン」を洞察によって見出す手法です。そのため、インタビュー調査においては「誰を呼んでくるのか?」ということが、とにもかくにも重要な要素となります。強く言い切るならば「この人は母集団を代表している」という人をリクルーティングできないことには、そのリサーチは成立しないのです。つまり、誰を呼んで何の話を聞けば、今調べようとしていることが明らかになるのか、今起きている状況が理解できるのか。この設計を行い、また設計どおりに対象者をリクルーティングしてくる。その過程が非常に重要な調査手法です。こうしたリクルーティングを行おうとした際に、従来行われてきた対面でのインタビュー調査というのは、物理的な面で非常に大きな制約がありました。インタビュールームに足を運び、日時の調整が可能な方がそもそも、対象者を代表する、代表性を持った方であるとは限りません。それが重なるということは、確率論的には著しく低いものだったわけです。つまり定性調査こそ、実はリクルーティングし得る母集団、モニターの数が非常に重要になる手法なわけです。このことからLupeは元来、定性調査はオンラインを前提に、リモートで実施されるのが望ましいものだと考えてきました。折しも、コロナ禍で日本中、世界中の人たちがビデオ通話を通じて、場所の制約を受けずに対話ができるインフラが急速に整いました。かつて2、3年前はZoomというアプリの名前を言って理解できる人は、IT業界の一部だけだったんだけど……今や小学生からシニアまで使っています。このようにインフラも整ったことによって、元来リクルーティングが非常に重要な定性調査の手法がまさに開花しようとしていると言っても過言ではないと考えています。さらに、会話や言語表現の中で読み解くことのできる内容については、全く遜色なく対面でのインタビューと同様に進められると感じています。また、多くのオンラインインタビューを実施してきて感じることなのですが、ご自宅からオンラインでご参加いただくケースの方が、実はリラックスしておられて本音が出やすい。良い意味で油断なさっている。そのような印象を持つことが多いです。どうしても、インタビュー会場に電車に乗って外行きの服を着て外出をして、そこには企業の方がいらっしゃり、ご挨拶をして、という参加までの経緯の中、対象者ご自身は少なからず緊張感を持つことになります。そして、「何か聞かれたことに対して期待どおりのことを答えなきゃいけないんじゃないか」などと平常心でない状態になってしまうことも往々にしてあります。これは、対面調査のデメリットとしてたいへん大きなものです。逆に油断してリラックスした素の状態でお話を頂けるのはオンラインインタビューの最大のメリットの一つと言えるでしょう。オンラインインタビュー調査においては、いかに対象者の本音を引き出せるかがポイントになりますので、そういった意味で、会話・発言がよりリアルな、正直で素直なものにしやすいというメリットもあると感じています。改めてメリットを整理すると、今や日本人の多くがZoom、ハングアウトをはじめとしたビデオ通話アプリを普段から使っているような状況になったため、オンラインでインタビュー調査を行う方が、日本中、老若男女、子育て中のお母さんから、例えば疾患を抱えておられる外出の難しい方まで、ありとあらゆる対象者、本来調査すべき対象者に対して調査できるようになったのが今の状況と言えるのではないでしょうか。誰でも対象者が幅広く境遇を問わずご参加いただけることは、対面インタビューと比べてあまりにも大き過ぎるメリットであると言えます。逆に言うと、やはりインタビュー会場に来られる人は、都市部にお住まいで時間の自由度が高い方にかなり限定されていました。他方、オンラインインタビューにおいては、お呼びできる対象者の粒度が非常に細かくなりましたし、Zoomの浸透もあって、今まで対面インタビューでは考えられなかったぐらいインタビュー調査の対象者をリクルーティングする自由度が高まったと感じています。それが最大のメリットだと思います。2. 対面ユーザーインタビューのデメリット従来の対面でのインタビュー調査では、インタビュールームに足を運んでいただき、会議室を用意し、そしてプロジェクトの関係者がそこに一堂に会して時間と場所を共に過ごすことには非常に多くの手間と時間がかかったわけです。対象者の方には移動の時間やコストをかけてしまいますし、陪席者(調査を依頼しているクライアント)の皆さんにも会議室までの移動時間、もしくは待機時間が発生するわけです。多くの時間とお金がかかる手法だったため、なかなか頻繁に開催するのが難しいという実情がありました。また同時に、参加者が限られる、限定されるというデメリットが存在していました。参加者が限られた理由はまず地理的な要件で、インタビュー実施会場からそれほど遠くない距離の方に限定されていました。さらに参加可能な時間についても、対象者となる方のお仕事終わりや休日に限られていました。そのため、例えば小さなお子様を抱えていらっしゃる外出が難しいお母様や、長距離の移動が難しいお年寄り、あるいはインタビュールームのない地方の方、または平日はお仕事でお忙しく休日もご家庭の事情でなかなかご自身の時間がないといった忙しい方々などにご参加いただくことは非常に難しかったのです。すると、調査の対象者が偏ってしまうので、定性調査ができる対象者の範囲も非常に限定的だったというデメリットがありました。3. リクルーティング可能な対象者Lupeではオンラインインタビューを多く実施しているわけですけれども、リクルーティングに関してよく頂く質問で、「オンラインインタビューだと、お年を召された方、シニアの皆さんが集まりにくいのではないか」といった内容のようなご質問を頂くことが多くあるんですが、実は、面白いことにこれは真逆の状態になっていまして、「アクティブシニア」と呼ばれる方々が、インターネットのインフラも整い、スマートフォンを中心としてデバイスも手にした時に、今急速にZoomを使ってお友達同士コミュニケーションを取られているとか、あるいはこういうツールを使って調査に協力したいとお感じになる方もたくさんいらっしゃって、むしろ、足を運んでいただくのが難しかったような世代の方々とはオンラインのやりとりがすごくやりやすくなっています。また、これは前述のとおりですが、妊娠中の妊婦さんや、産後間もなくの子育て中のお母様もZoomを使って子育ての相談をしたり、あるいは親戚と相談をしたりといった場面も想像していただけるでしょう。家から出られないこのような方々にとって、Zoomをはじめとしたビデオ通話のインフラは非常に大きな武器になっています。それと同時に、このツールを使ってインタビューにご協力を頂けるという方もたくさんいらっしゃいます。このように、これまではそういった方々を対象にしたサービスを企画しようとしても、なかなか代表性を持った対象者を定性調査で呼んでくるということが難しかった分野において、急速に的確なリクルーティングができる状態が整っているのが今のオンラインインタビューの状況とご理解いただければと思っています。4. リーンな仮説・検証の場面で活用可能にまた従来は、企画者(調査の依頼主)にとっては頻繁にできるものではなかったので、試行錯誤を繰り返している段階、企画開発を短いサイクルで実施するようないわゆる「アジャイル型」の企画開発や、「リーン・スタートアップ」のような手法にはフィットしない、不向きであるという状況でした。リーン・スタートアップには、無駄なく仮説・検証を繰り返すという特徴がありますので、仮説が思い立ったら、そのことを対象者にインタビュー・ヒアリングして仮説が正しいかどうかを検証し、また別の仮説を立てて別の対象者に聞くといった形を必要とします。日々、話を聞く対象者が次々と変わっていくようなタイプの企画開発の段階においては、会議室にわざわざ足を運んでもらって、時間とお金をかけてインタビューをするという手法はあまりフィットしませんでした。しかし、オンラインインタビューの最大のメリットとして有効なリクルーティングができるようになり、その他にも物理的に工数、手間、お金がかかるものであったのが、利用者側にとっても利用しやすくなったという両面から、現在、調査方法として非常に新しい可能性が広がっている分野ではないかとも考えられます。5. オンラインユーザーインタビューのデメリットオンラインインタビューのデメリットとしては、例えば対象者の方がスマートフォンの画面を操作している時に、画面の共有は可能ですが、画面を触ろうとしている指の動きを確認するのは難しいことです。また、残念ながらZoomの画質もそれほど高精細ではありませんから、例えば、ちょっとした表情の変化、あるいは何か、対面で空間を共にしているときならではの体験者の方のわずかな空気感の違いを感じ取ることはできません。また、通信環境が悪い場合にはインタビュー自体の成立が難しいというデメリットもあります。さらには、何か物体、形のある製品などを試していただく調査のときは、同じ空間の中で実際にその目の前で製品を触ったり試したりする様子を見ることに比べれば、オンラインではカメラ越しになりますので、例えば反対側の角度からは見えないとか、立体感をもってはつかめない。こういったデメリットは確かにあると思います。6. オンラインユーザーインタビューで定性調査が花開くさて、従来でも定性調査は、理想的な状態で調査できたならば、非常に有効な手段だったはずなのですが、この理想的な状態があまりに作り難かったので、なかなかこれを実践して成功体験を持って毎回いつもやっているという方はきっと多くはなく、広がっていかなかったことによって、なかなかこういう手法は取り入れられなかったと考えられます。しかし、定性調査に適応できるケースが稀であった状態から、今や、これだけの数、2000万人を対象にオンラインでインタビューできる状態になったとき、すなわち最大の肝であるリクルーティングの精度が上がったことにより、実はまさに今、かつては定性調査を考えられなかったような領域において質的に劇的な変化がもたらされる可能性が高まっていると言えるのです。つまり、質的調査の有用性は、あらゆる分野において適応され得るレベルの実用性を持つまでに既に進化を遂げており、その急激かつ非連続的な価値創造によってリサーチの世界のパラダイムチェンジを起こしていると確信してやみません。かつて、インターネットが登場する以前、アンケート調査は郵送で行われていたわけです。インターネットの普及によって、アンケート調査の多くがネットリサーチに置き換わりました。ちなみに、近年の日本マーケティング協会の統計によると、それでも60数%なのですが。また、この過去10年、スマーフォンの普及によって、例えば個人の日常消費のデータの収集は少し形を変えようとしています。従来、POSレジのPOSデータ、POSを展開している業者さんからのデータで分析をしていた手法から、個人が買い物したレシートをスマートフォンのカメラで撮って送って読み込むという手法に変わりつつあります。この手法によって、POSを導入していないような個人の商店などにまで、日常消費の買い物に関する定量データの捕捉範囲が広がり、また、そのデータに位置情報が付くという価値も加わりました。今まさに、これら社会全体の価値観に生じた革命的とも言える変革と同じことが起きているのです。コロナを機に急速に普及したオンラインコミュニケーション、ビデオチャットツールのインフラや利用習慣がベースとなり、これまではなかなか対象者の代表を見つけなければならないリクルーティングの難易度という要因で成立しづらかった定性調査が、果たして今や一気に花開こうとしている時期を迎えているのではないでしょうか。